アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
「あなたみたいな人には僕の気持ちなんてわからない。
……ひどい人だ。こんな風に僕の気持ちを踏みにじるくせに、僕の食事を心配している。
あなたが優しく振舞うのは一人になるのが怖いだけで、真心なんてどこにもない」
言葉は確かに侮蔑だった。けれどその響きは甘く、聞いているこちらの胸がひりひりと痛むほどに切なかった。
やはりミハイルには看破されていたのだ。
私は愚かで頼りない人間だ。何かを決めてやり通すということを知らない。
なぜ自分がこんな人間になったのかはわからない。
父は無口だけれど昔気質の人で、少し頭の堅いようなところはあったけれど、私とは正反対の人だった。子どもとして、ちゃんと育ててもらったと思う。
けれど私にはミハイルの言うように自分がない。どういうわけか、ない。どこにもしっかりと根を張ることができないまま、私はただただ慣れた暮らしの中に埋没している。そこに強いこだわりも美学も何もない。仕事だって父のやっていたことをそのままなぞっているだけだ。
「ご、ごめ」
ごめんなさい、という言葉はミハイルの唇に押しつぶされた。
雪の中で佇んでいたのであろう彼の唇は凍りつきそうに冷たいのに、そのキスは私が苦しくなるほど熱かった。
この人は不甲斐ない私を嘆いている。私が不甲斐ないためにひどく苦しんでいる。