アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
「そんなことない、ミハイル」
それはちがう。
誰だっていいなんて思ったことはない。
あなたのかわりになんて誰もなれない。
蒔田くんには確かに同情しているけれど、ミハイルに感じる気持ちとそれは全く違うのだ。
でも今の私が何を言っても、ミハイルはきっと信じない。
彼は私が逃げないように私の髪を握り締めたまま、その髪に唇を寄せ、目を伏せて口づけした。
彼の瞼(まぶた)は、唇は震えていた。
「ミ、ミハイル……」
「裏切り者……」
彼はそう小さく呟いて私の手首を強く握り、そしてもう一方の手で二階へと続く扉を開けた。