アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
私はひどく疚しいことをしている気になり、彼から目をそらした。
彼を自室に帰すべきだと思った。
ミハイルは蒔田君に居場所を奪われてむきになっているだけだ。
朝になって互いの顔を見れば、きっと自分の犯した間違いの意味に気がつくことだろう。
私はベッドから立ち上がり、宥(なだ)めるつもりで言った。
「蒔田君のことは大丈夫。もうここには来ないように言うから。
本当に、ごめんなさい」
その瞬間、ミハイルが私の腕をつかんでベッドに引き倒した。
私を見下ろす彼の瞳はぎらぎらしているのに妙に静かで、さながら美しい獣のそれのようだった。
ミハイルはもうとっくに腹をくくっている。この先に起こることを、この男は自分の体と命で受け止め乗り切ろうとしている。
「ミハイル」
彼の大きな手が起き上がろうとする私の肩を押さえつけた。彼の手が触れると、私は自分の体がひどく華奢であるかのように錯覚する。男と女は違うのだとわかってはいても、改めて互いの肌に触れれば、その違いを突きつけられるようだった。
繊細でどこか冷ややかな普段の「彼」は彼の一面に過ぎない。彼の中には彼自身を燃やしてしまいそうなほどの熱い感情が秘められている。
私は怯えつつ、言葉も出なくなるほどのそのアンバランスな美しさに戸惑っていた。
彼は慰めるように、そっと私の髪を撫でた。
「馬鹿な人だね。だから言ったんだ。鍵を開けておくなんて、って」