アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
「僕は後悔してもいい。傷ついてもいい。リスクを背負ったっていい。その覚悟がある。
でも、あなたにも僕と同じだけ後悔してほしい。ずっと、死ぬまでずっと。
これきりあなたに忘れられてしまうなんて、絶対にいやだ」
ミハイルの指先が、そっと私の頬に触れた。その指先は彼のキスと同様かすかに震えていて、自分自身の野蛮な行為に彼が自身で困惑しているさまがありありと見て取れた。
彼の胸から心臓の音が聞こえる。聞いているだけで苦しくなるような激しい音だった。
私の心臓もその音に引きずられるように、トクトクと次第に鼓動を早めていく。
「クラサーヴィッツァ(美しい人)。死ぬまでずっと今夜の事を後悔していればいい。
……今夜のことを、ずっとずっと覚えていて。あなたに芯がないせいで、僕がこんなに苦しんでるんだってこと……一生忘れないで」
青白い雪明りにとけてしまいそうなミハイルの美貌は悲しげだった。
私もきっと、悲しい顔をしていただろうと思う。
私達が互いの方向にこうして踏み出したとしても、その先には何もない。私達は手を取り合って先のない関係の崖っぷちまで走っていくだけだ。
いずれ私達を襲うであろう苦しみを予感しながら、私はミハイルの冷え切った肌に頭を寄せた。彼は私を抱きしめ、唇を重ねた。何度も何度も唇を重ねた。
耳が痛くなるほど静かな夜の中、私たちの心臓の音が絡み合い、高鳴り、やがてどちらの心臓がなっているのか、もうわからないほどその音は混ざり合い、そこに吐息が重なった。