アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)


しかし、それはあくまで私の想像だった。


初めて店にやってきた王子の哀れな様子はただ単に私が彼の上に投影したイメージでしかなかったようで、王子には王子の処世術があるらしい。



その後、王子は何が気に入ったのか、度々この店を訪れた。
はじめのうちは一人で。
そのうちに同じ高校の学生だろうか、何人かの決まった学生と待ち合わせをするようになった。

そのころにはもう王子の周辺に仕える人々も王子の寄り道に慣れっこになってしまったのか、はじめのように緊張した面持ちで王子を迎えに来るようなこともなくなった。
本当はセキュリティ上いいとはいえないのだろうけれど、彼らは意図的に手綱を緩めているようにも感じられた。

元々カガン人は日本人のように時間やルールに厳しくはない人たちなので、王子が一時間ほど私の店で友達と語らうくらいのことはできるらしかった。

ここは日本だ。
平和だといわれる国だ、本国ではない。

そういう態度が彼らの中に透けて見えた。
彼らにとって、日本に留学する王子に随行することは半分休暇のような仕事であったのかもしれない。
王子はそういう彼らの気の緩(ゆる)みをうまく利用していた。

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