アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
「不安になったんだ。僕はあなたのことばかり考えているのに、あなたは何も変わらないような顔をしているから」
ミハイルは知らないのだ。
私はもうずっと、昨夜、ミハイルとセックスをするずっと前から彼のことを気にしている。
仕事をしながら何度天井を見上げたか知れない。
「わかっている?ハル。あなたは僕のもの。……僕が、あなたに印をつけた」
私は小さく頷いた。
外は雪がちらついているというのに私の心はじわじわと温かい。
まるで童話の中から抜け出してきたかのような王子様に、私はいいとしをして夢中になっている。
いいのだろうか。
こんなことをして、許されるのだろうか。
何度も何度も心の中に問うてみても、希望のある答えは返ってこない。
「ミハイル」
「ん?」
「愛してるって、カガンではどう言うの」
私達は何も約束を交わすことはできない。カガンは国として残るかどうかもわからない。
だからせめて、彼の不安を和らげる言葉を口にするべきだと思った。
彼は私の意図を察して浅く微笑んだ。
「Я люблю тебя……」
異国の響きは外国語があまり得意でない私にとってはうまく聞き取ることさえ難しかった。
「ヤー……?」
ヤー、リュブリュー、チェービャー、と私の耳には聞こえた。それを聞き取ったまま口にすると、どうやらまともな言葉にはなっていなかったらしく、ミハイルはくすくすと笑った。
「Я、люблю、тебя」
ゆっくりと一言一言を区切って聞かせてくれても、私にはうまく聞き取れない。
彼は苦笑すると、私の唇に自身の唇を添わせるように軽く重ねた。
そしてそのまま、再びゆっくりとЯ люблю тебяと囁いた。何度も、私がその言葉をすっかり覚えてしまうまで、彼は根気よく私に付き合ってくれた。
高貴だけれどその分どこか冷たいような彼の姿からは想像もつかないほど、彼は愛情深く、そして純粋なやりかたで私に気持ちを伝えてくれる。間違ったことをしていると分かっていながら、私はもうすでに身動きが取れなかった。