アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)



王子が私の店を訪れるようになって三ヶ月ほどたった頃、彼と待ち合わせる友人たちの中に、何人かの女の子が混ざるようになった。

その女の子たちの中にひときわ可愛い子がいた。

彼女は目がぱっちりとしていて、癖のない黒髪を胸の辺りまでたらした色の白い子だった。

そのまま芸能界に連れて行っても通用しそうなほどきれいなその子に、他の女の子たちは友達でありながら一目置いている感じがした。
男の子たちも彼女には友人同士の気さくな態度の中に気遣いを滲ませている。
おそらく、彼女は王子が好きなのだろう。いつも彼女が店に来るときは王子の隣に座った。


「文化祭の打ち上げ、王子も参加する?」


彼女が王子の顔をのぞきこんだ。よく手入れされた黒髪がさらりと背中から胸元に流れる。
王子は物憂げな様子で少し首を傾げた。

「どうかな……、イリアスが一緒なら」

「イリアスさん?」

「ほら、あの人」


男子学生の一人が眉間に皺を寄せて少し顎を引くと、王子の身辺のことなどあまり知らない人でも誰だかよくわかる。
王子が店に来るとき、必ず迎えにくるカガン人だ。
まだ二十代前半の若い人だけれど、きっと優秀なのだろう、彼よりも年長のカガン人に指示をだしている姿を見たことがある。
男子学生のモノマネがあまりにも似ていたので、私は思わず吹き出しそうになる口元を押さえて彼らから顔をそむけた。

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