アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)

「ミハイル。
そんなことを言って、あとで困るのは自分だよ……?」


その生まれのせいなのだろう、彼はそもそも無口な人間で大仰な言葉などけして口にする人ではない。私と暮らし始めた当初もあまり喋らなかった。
ミハイルは王子だ。いずれ王となる立場だ。

一国の王の言葉は一般の人の言葉よりもずっと影響力が大きいことは私のように王族と何のかかわりもなく生きてきた私のような人間にだって簡単に想像がつく。

ミハイルだって当然自分の言葉の影響力はしっかりとわかっているに違いないのに、今の彼は燃えるような激情を言葉に託して私に訴えかけている。


もちろん私は彼は一時の激情のままに口走った言葉を言質と捉えて彼を意のままに動かそうとは思わない。彼もある意味私を信用してそんなことを言っているのだろう。

しかし妻とか夫婦とか、いくら私が自分の立場をよくわかっているとはいってもそんな重い言葉を感情のままに口に出してほしくはなかった。そんなことはできないと分別をつけているつもりでも、私の心は激しくゆすぶられてしまう。心をもとの位置にまで戻すのに骨を折らなければいけなくなる。


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