アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
私はミハイルよりも年齢だけは重ねている。
私は広い世界のことは何一つ知らないかもしれない。愚かで何も知らないかもしれない。でも自分の器を越えた夢に縋って生きていけるほど現実が甘いものではないことだけはよくわかっている。
彼の大きな手が私の手首をつかんでベッドに強く押しつけた。
「では、あなたは僕と別れて、もう二度と会わないなんてことができるの。あなたのЯ люблю тебяは、そんな軽い意味だったの。
……僕は違う。そういう覚悟で僕はあなたと寝た。あなた自身に覚悟があってもなくても、……あなたはもうすでに僕の妻だ。この夜をなかったことになんか、させない」
彼は怒りと屈辱に燃える瞳で私を見据え、唸るようにそういった。
私はおびえた目をしていたに違いない。
ミハイルの剣幕が恐ろしかったというのもあったが、それ以上に、私はここまで彼に言わせて初めて悟ったのだった。
この恋はお互いをぼろぼろにする、破滅の恋なのだ。
ありがちな悲恋ではない。
これは私の人生もミハイルの人生も、一瞬交差しただけの互いの運命を捻じ曲げてしまう恋……いや、ある種の事故なのだ。この恋によって私達は永遠に後遺症をのこす、深い傷を負うことになるのだ。