アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
図星をつかれ、私は思わず目を見開いてしまった。おばさんはにんまりと笑うと立ち上がった。
「子どものころから見てるハルちゃんがそんな顔をするのを見るとなんだか、おばちゃんも照れちゃうわ」
「お、おばさん」
「いいのいいの。……でも、困ったことがあったらいつでも相談してね。こうみえても結構私は色事(いろごと)の相談では頼りになるんだから」
「色事って」
思わず吹き出してしまうと、おばさんもふふふ、と意味ありげな笑いを漏らした。
おばさんの過去について少し突っ込んで聞いてみたい気もしたが、そのとき丁度、おばさんのエプロンのポケットから軽快なメロディが聞こえてきた。
おばさんは携帯を取り出して眉をしかめた。
「あ、うちの極楽蜻蛉(ごくらくとんぼ)を迎えに行く時間だわ」
極楽蜻蛉にバカ亭主。おばさんは、商売をおばさん任せにしてよく店をあけるおじさんをいろんな名前で呼ぶ。しかし夫婦仲が悪いのかと言うとそうでもない。おばさんが自分でおじさんを迎えに行ったり、またおじさんのほうでなにかとおばさんをあてにしたりして二人で一緒のところを見ることが多い。
「おじさん、こんな時間に出かけてるんですか」
おばさんは片手でパチンコを打つ真似をして見せた。
「コレよコレ。景気が悪くたっておかまいなしなんだから。私が迎えに行かなきゃ潮時もわからないくらい。
じゃあね!またくるわ」
おばさんはそう言いながら慌しく店を出て行った。
突然静かになった店内で、私は一つためいきをもらした。
「結婚かぁ……」