アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
私はゆっくりとドアを開けた。
彼らの用向きを尋ねるのが怖いという気持ちはもちろんあったが、このまま自宅で籠城していても問題を先送りにするだけだと思ったからだ。
ドアを開けると、映画やドラマで見るイメージとは違い、少しデザインの古いコートの下に地味なスーツを着た四十代くらいの男性と、ダークグレイのスリーピーススーツの上に黒のステンカラーコートを着た穏やかな表情の男性が一人。そしてその後ろにすらりとした金髪の男が立っていた。ドアスコープから見えたのは他の二人よりも頭一つぶん背の高い彼の姿だったのだろう。
地味なスーツの男性はコートの胸ポケットから手帳を出した。黒い革の手帳には身分証明のためのもののようで、「高坂 巧」と太字で印字されていて、緊張した面持ちの顔写真まで貼ってあった。
彼は私の外聞を慮ってか、低く押し殺した声で言った。
「あなたが比嘉(ひが)遙さんですね。
職業は一階のカフェ・モーリスの経営者ということでよろしいですか」
私は頷いた。
もう一人のスリーピーススーツの男性が前に出た。
「私は外務省からきました。こういうものです」
こちらの男性は幾分柔らかい雰囲気で、名刺を出してくれた。何をやっているのかすぐにはわからない役職と「井出雄二」と書かれていた。
私は小さく頷いてそれを受け取り、公安警察、外務省と来ればミハイルの話に違いないと確信した。
一国の王子を匿(かくま)った。
警察にも通報しなかった。
それがどんな罪になるのか、法律に明るくない私には想像もつかない。
私の顔は無意識のうちにこわばっていた。
その時、二人の男性の間から金髪の背の高い男性が進み出た。