アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
「ええ。ですが、こちらで応急処置をしていただいたので大事には至らなかったようです。ありがとうございました」
おそらく、彼がほとんど自分で応急処置をしていた傷のことを言っているのだろう。今日新たに怪我をしたというわけではなさそうだ。
私はほっと安堵(あんど)の息を吐いた。
「そう……そうですか」
「ええ。それで、このような時間に伺ったのは殿下からあなたをお連れするようにとのお言葉があったからです」
「私を」
「はい。殿下の身にはもうほとんど危険はありませんが、……あなたのご友人で、マキタ、という方がいらっしゃいますね」
私は頷いた。
「そのマキタ氏が、あなたの店のことと、そしてここに若い男性住んでいる、という内容をSNS上に書き込んだのが二日前のことでした。そのことについて少し問題がありまして。今はあなたを保護する必要があるのです」
私は驚きに大きく目を見開いた。
蒔田君がそんなことをするなんて考えもしなかった。よく考えてみれば我が家にミハイルを匿っていることは人に知られてはいけないことだった。ミハイルもそう言っていたし、ミハイルはそのためにあのきれいな金髪をわざわざ黒く染めたのだ。
私はミハイルの気持ちにばかり気をとられてそのことをちゃんと考えて対策することになど全く思い至らなかった。ミハイルを守りたいという気持ちは確かにあったのに、気持ちばかりが焦って実際にはそこまで考えが足りなかったのだ。