アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
カガン国は寒い国だ。一年の半分は雪に閉ざされている。
そういった気候の中では植物は雪から身を守るために葉を細くする。
カガンは深い針葉樹の森では有名だったが、ポトスのようにみずみずしく広い葉を持つ植物は珍しいのかもしれなかった。
日本ではポトスはありふれた植物で、一鉢置いておけば縦横に枝を伸ばす。少々世話をしなくても枯れないほど強い植物だ。けれどポトスは意外なほど寒さには弱かった。戸外なら日本であっても冬を越すのは難しい。
「よかったら持って帰りますか。たくさんありますから好きなのを」
何気なくそう口にしたつもりだった。
しかし、彼のほうではそうは受け取らなかったようで、彼は目尻をさっと赤く染めた。
「欲しくて言ったんじゃありません。
カガンは日本ほど豊かな国ではないけれど……日本人が思うほど貧しい国でもない」
私は、そんな些細なことで恥を感じる彼の誇り高く繊細な性質が気の毒になった。
そして、彼が繊細そうなのは感じていたはずなのに、不用意な言葉で彼に恥をかかせてしまった自分の不器用さも情けなくなった。
「あなたがこれを欲しがっているとは思いません。
ただ、この植物は強いから……増えすぎて、困っているんです。せっかく茎を伸ばしたものを切って捨ててしまうのはかわいそうだと、つい瓶に挿しておいたら見る見るうちに増えてこの通り」
王子はガラス玉のような瞳で私を見つめた。
何もかも見透かしてしまいそうな不思議な色の瞳。
私は見つめられることが気恥ずかしくなってしまって目を伏せた。
これは私の癖のようなもので、王子だからこうしたというわけではない。誰かとじっとみつめあうのは苦手なのだ。
「僕は嘘をついた」