アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)


「ええ。あなたの身に危険が迫っているという具体的な証拠はありませんが、しかしその可能性がないとも言い切れません。
私達の国のために日本の一般の女性であるあなたにこんなご迷惑をおかけすることになってしまい本当に心苦しいのですが、安全が保障されない以上、あなたをこのままここにおいておくわけには行きません。念のために一週間ほどここをあけるつもりでいてください。
その間、喫茶店についてはカガン政府が休業補償をさせていただきます」

「あ……ハイ……」

今現在、カガン政府は実質的には機能していない。クーデターを起こした軍関係者がカガンの主要な政府機関を占拠した状態だ。
だから今後の成り行きによっては休業補償どころか国そのものがなくなるかもしれない。そんなことはもちろんイリアスさんだってわかっているだろうに、カガン人としての矜持ゆえだろうか。まるでカガンには何の問題もおこっていないかのような口調で淡々と先の話をしている。

私はそれを奇妙に思いながらも、本当に?と確認することはしなかった。

十五分ではそんなことをしている時間の猶予はなかった。ここを訪れた男性三人はみんな露骨に焦っている様子は見せなかったが、しかし、彼らがなんとなく外の様子を気にしているのが伝わってくる。

私は慌てて奥の部屋に入っていき、貴重品や当面必要であろうと思われるものを急いでバッグに詰め込んだ。


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