アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
日本とカガンの政府関係者三人に言われるまま、ごく普通のワゴン車に乗り込んだものの、私はひどく緊張していた。
急いで欲しいと言われていたので何を考えるという余裕もないまま素直に指示に従った私だが、車に乗って座ってみると、彼らが本当に政府関係者なのかどうか分からなくなってしまった。彼らは一応身分証明書はこちらが言うまでもなく示してくれたが、正式な警察庁の身分証明書など見たことのない私にはそれが本物かどうかさえわからない。
ただイリアスさんの顔を知っているというだけで彼らを信用してついてきてしまった。
私は一体どこに連れて行かれるのだろう。
不安のあまり、ときどきイリアスさんの横顔越しに外の景色を見てみる、普段あまり出歩かない私には少し車で走れば土地勘などなくなり、見知らぬ景色だけが延々と続くことになる。やがて車はすぐに高速に乗り、私は完全に知らない景色を黙って眺めることになった。
「あの、イリアスさん」
イリアスさんはその端正な顔を少しこちらに傾け、目を細めた。
「後10分で目的地につきます。気をお楽になさっていてください。何も悪いことはおこりませんから」
「……そう、ですか」
どこに行くのか、本当に私は一週間で家に帰れるのか、ミハイルはどんな様子なのか。聞きたいことは他にもたくさんあったが、微笑を浮かべつつもどこか緊張を感じさせるイリアスさんの横顔を見てしまうと、自分の不安をそのまま言葉にして根問いするのはなぜかとても悪いことのように思われた。
聞きたいことを聞かずに黙って不安に絶えていると、そのうちによくない想像ばかりが押し寄せてきて、胃の辺りがぎゅっと詰まってくるようだ。