アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
そこでミハイルは少し言葉を切り、その冷たい美貌にうっすらと皮肉げな笑みを浮かべた。
「彼はあの日のことがよほどこたえたと見えるね。ずいぶんと悔しそうな文面だった」
「その書き込み、蒔田君に言ってすぐに削除してもらいます。ごめんなさい」
「いや、もう削除済みだ。
あなたが彼と直接連絡を取る必要はない」
彼はどんな気持ちでそれを口にしたのだろうか。
ミハイルと私の関係、蒔田くんと私の関係があるだけにこちらとしてはその言葉の裏にこめられた彼の気持ちがどうしても気になってしまう。感情など覗かせないきっぱりとした彼の物言いが余計にそんな気持ちを掻き立てた。
「……」
私は自分の軽挙が恥ずかしく、うつむいて膝の上のこぶしを握り締めた。
「ただ、あの場所がカガン人の目に留まらないとも限らないので、僕はもうあの家に近寄れない。
そしてあなたの身も安全だとは言えない。
だからあなたは僕が国外に出るまではここで暮らして欲しい。
ただでさえあなたには迷惑をかけたのに、またカガンの事情であなたを振り回し仕事にまで影響が出てしまった。
こちらこそあなたにすまない気持ちで一杯だ。
どうか、許して欲しい」