アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
ミハイルは静かに私を見つめていた。
私もまた彼をときどき盗み見た。
そうやってお互いを見つめていると、やはり彼の瞳の奥には私を妻だと言い張った彼の熱情がチラチラとろうそくの炎のように揺らめいているような気がした。
それは私達のあの暮らしを知らない人間にはうかがい知ることのできないかすかなものだったかもしれない。あるいはただ単に私がカガン王子の瞳の中にあの日々の名残(なごり)を求めていたからそう見えたのかもしれない。
イリアスさんは王子の脇に立ち、王子の側近としての務めを果たすべく、ミハイルの次の動きに気を配っている。
「あなたに会えてよかった。
危険はないとはいえ、やはりあなたは女性で、それに一人暮らしだから」
彼はぽつりとそう言い、ティーカップを置いた。
終わりだ。
私はティーカップを受け皿に置くそのかすかな音にこの短い時間の終わりを感じた。
美術品のように薄いティーカップを持つ私の手が震えた。
「それでは、お部屋までご案内いたしましょう」
イリアスさんがティーカップを回収し、私の脇に立った。