アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
「お疲れでしょう、ごゆっくりお休み下さい。
せっかくの高層階ですが、どうしてもという時をのぞいて、カーテンはあけないようにしてください。あなたの居場所が人に知られると、少し面倒なことになりますので。
同じ理由で、一人での外出もなるべく避けてください。お出かけになる際はコウサカさんにお声がけを。
……なにか、足りないものはありますか。お食事は?」
私は首を横に振った。ミハイルと一緒に食事をしようと夕食は待っていたのだが、今はもう食事などどうでもいいと思えるほど胸の中がいろんな感情で一杯になっていた。
イリアスさんは私の服が入った大きなバッグを荷物台に置いた。
私の部屋として案内された部屋はミハイルのいた部屋ほど広くはないけれど、それでも一人でいるには十分すぎるほど広い。部屋の中がきっちりと整いすぎてこういう場所に不慣れな私にとってはくつろぐのは難しい。
「ありがとうございます。食事はもう今日は結構です」
内心の緊張を悟られないよう、愛想笑いも付け加えて返事をしたはずだったけれど、実際に私の顔に浮かんだのはこわばった表情のゆがみであって到底微笑と呼べるようなものではなかった。