アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)

ゆっくりと息を吐くと、少しだけ諦めがついていくような気がした。


もともと、私の家にいたミハイルという人は架空の男であって、この世のどこにも存在しない。
今日、このホテルで見た輝くばかりに美しく、そして冷淡な彼こそ本来のミハイルなのだ。


私の家にいた、繊細で情熱的なミハイルは、やがて完全な王子に戻る。そうでなければカガンの国民すべてが困ることになる。

ミハイルに罪はない。
家を出たまま二度と私のことなど思い出さなくても私も誰も彼を責めはしなかっただろう、それでも私を呼び寄せ、こうして最後の時間をくれた彼は彼の立場の許す最大限の配慮をしてくれたということなのだろう。

別れの挨拶ができるだけ幸せだ。
私がミハイルと関係をもっていた当初思い描いていた二人の別れよりも、少しはましだ。

私はそう思って泣き出しそうな自分の心を宥(なだ)めるより他なかった。


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