アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)

私は顔を上げ、紫にきらめく瞳を見上げた。まるで私の魂を吸い取ってしまいそうなその美しい瞳を見上げていると、彼もまた食い入るように私の目を見つめた。

先に動いたのはミハイルのほうだった。

彼は私の髪を指にからめ、私の目を見つめたまま私の髪を手繰(たぐ)った。
頭を引き寄せられた私は素直に彼の腕の中におさまり、その優しい唇をまぶたで受けた。
私の肌に馴染んだ彼の体温、肌の香り。懐かしいその香りにほっとため息が漏れた。

「早く二人で会いたかった。あなたが見えるところにいないと落ち着かない」

ミハイルの囁きは甘えるような響きを含んでいた。

「心配してくれたの。ありがとう。
でも身の危険があるのは私じゃなくてミハイルだから、ちゃんと高坂さんたちのいるところにいなきゃだめだよ」

高坂さんたちはミハイルがいないのに気付いたらきっと慌てるに違いない。彼らは私をというよりはミハイルの身の安全を守るためにこのホテルにつめているのだから。

「心配だけじゃなくて、……もう僕の肌があなたをすっかり覚えてしまったから、離れていると自分をどこかにおいてきてしまったみたいに感じるんだ」

ミハイルは私の手を取り、ダンスをするときのように手の平を重ねた。大きな骨ばった彼の手のひらに包まれた私の手はとても小さくなったように感じられた。


「今、やっと少し気持ちが落ち着いた。
あなたは少し怖いようなところがあるから。目の前にいないとどうも不安になる」
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