アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
私は彼の不器用で潔癖な生き方に触れ、静かに目を閉じた。
ミハイルから逃げることはできない。
私はきっとこれから自分の持っているものすべてを失うだろう。
けれど、私のような頼りない生き方しかできない人間にかつてこれほど助けを求めてくれた人があっただろうか。
それを思うと、私はミハイルを拒絶することはできないのだ。
この人には私が必要なのだ。少なくとも今は。
「いいよ、ミハイル。一緒に行こう」
私はそう返事をした。
シンデレラストーリーを信じているわけじゃない。
階段を駆け上りつづけるような人生など現実にはありえない。
いつか私はこの決断を後悔するかもしれない。けれど、ミハイルを拒絶することはできなかった。
彼は私の顔を食い入るようにじっと見つめていた。やがて、小さく呻いた。
「ハルカ……あなたは結局いつだって僕を許してくれるんだね。
ごめん。……でも、愛してる」