アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)

「たまに、殿下がお忍びでうちの店に来ていたことはありました。
同じ学生のお友達が一緒だったこともあります。
でも、店の中でも外でも私が殿下と個人的に話をしたことはほとんどありませんでした」

それを聞いて彼は驚いたように眉をあげた。

「じゃあ、親しくなってからまだ日が浅い?カガンでクーデターが起こったのは12月半ばですよね。それで、殿下の行方がわからなくなったのが、……ええっと」

忘れもしない。ミハイルがうちにやってきた夜。
虎徹の泣き声と、身震いするような外気の冷たさ、いきなりミハイルに刃物を突きつけられたこと。平凡だった私の人生が、はじめておかしくなった夜だ。

「12月24日、です」

「そう、その24日の夜中に殿下が店を訪れるまで、ただの客と店主だったってことですよね」


私は頷いた。


「んー……。それまで、あなたはカガンに入国したことはないし、カガン語どころか英語もほとんど話せない。ですよね」

「はい」


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