アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)


イリアスさんは私の気持ちを感じ取ったのか、少し首をかしげて私の顔を覗き込んだ。その双眸には親切そうな光と、そしてわずかに好奇の感情が浮かんでいる。

彼はミハイルの部屋のドアを大きくあけて私を中へと促した。昨日通された部屋だ。テーブルの上の大手鞠(オオデマリ)だけが白と紫の胡蝶蘭に変わっている以外は何も変わっていない。まるで誰もこの部屋を使っていないかのようにきれいに整えられていた。

この部屋は応接室の代わりのような扱いであって、正確にはミハイルのベッドルームではなく、その奥にもういくつか部屋があるようだった。


「お茶を淹れましょう。どうぞ」

彼は私に座るように身振りで示した。

「あ、いいえ。私は」

「私が休憩したいのです。
クラサーヴィッツァ(美女)にお付き合いいただけると光栄なのですが、どうでしょう、お忙しいですか?」

彼は少し芝居がかった仕草で私に一礼した。まるで高貴な女性に対するようなその態度に、そんなことをされたことがない私はたじたじとなって思わず頷いてしまった。

清涼感の強いすっきりとした香りが部屋を満たしていた。
私は目の前に置かれたティーカップを見下ろした。水仙が一本、カップに巻きつけるように描かれていた。昨日出されたもの同様、やはり薄く繊細に作られている。

「どうぞ、カガンの伝統的な菓子です」

小さな皿がカップの傍に置かれる。四角い菓子の上に真っ白な粉砂糖をふってある。

「ありがとうございます」

彼が招いた立場だからなのか、イリアスさんは私の真向かいに腰掛けた。

「今日は、ミスターイデに今回の事件について、事情を聞かれていらしたようですね。お疲れでしょう」

「そうですね。……少し……」
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