アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
「……」
女官の中から誰か一人の女性が公式な場でのミハイルの妻になる。
最初に子どもを産んだ女性がそうなる、つまり言葉は悪いが早い者勝ち、ということになる。
では他の人は?ただの公務員?それとも妾のような立場になるのだろうか。後者ならばそれが自分であろうとなかろうと、なんとむごい制度かと思う。
「現実は、シンデレラは王子と結ばれました。めでたしめでたし……というわけにはいきませんね。
ですが、ハルカさまがカガンにいらっしゃればいずれあなたが正妃となられる可能性は高いでしょう。
殿下はまだ正式には王子というお立場で、ご自分の後宮を持つことはできません。ですからあなた以外のフレイリンナはまだ公募されてすらいないのです。
現在、未来のお妃候補として養育されている方々もまだ殿下と直接話をしたこともございません。
しかし、あなたはすでに殿下のお心をつかんでしまわれた。それを考えればあなたは他の女官よりもよほど有利なお立場ですよ」
「有利な立場になりたいんじゃないです。正妃になりたいわけでもない」
思わず本当の気持ちを吐き出してしまった。イリアスさんは私の言葉に眉をあげた。
「謙虚ですね。日本人が謙虚だということは世界中で知られていますが、……本当にそうなのですね。
あなたは一国の正妃になることに、本当に興味がありませんか。
日本の女性から見れば、発展途上国の王妃など、偉くもなんともありませんか」
「ごめんなさい。カガンの正妃の地位を馬鹿にしたわけじゃありません。名誉ある立場なんでしょう」
「ええ。ふつうはカガンで一番地位の高い女性は王母ということになりますが、殿下の場合はお母上である王太妃さまがもうお亡くなりになっています。
ですから今、わが国で一番位の高い女性は王子の妻となる女性、つまり正妃、あるいは王妃です」
「一国の王妃という立場の女性はきっと聡明さを求められますよね」
「そうですね。自分勝手な方や浅慮な方は困ります。
通常の女官は試験を経て女官になりますので自分勝手な方も浅慮な方も教養のない方も、そもそも女官になることさえ難しいかと思いますね」
「……」
そうだ。
一国の王妃になるというのは簡単なことではない。