アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
リポーターがマイクを向けると、彼女は迷惑そうにきれいな眉をひそめた。
「何もお話することはありません」
「一番殿下と親しかった方の一人とお聞きしていますよ」
リポーターは美貌の王子と女子学生の淡い恋の話題でも期待していたのだろうか、断られてもなおマイクを突き出した。
「殿下が大変なときなのに、そういうのってどうかと思います」
彼女の長い睫毛はわずかに涙にぬれているように感じられた。
生放送だったので、画面は突然スタジオに切り替わった。
スタジオのキャスターは女子学生のことなど何事もなかったかのようにカガンの情勢や長い属国としての歴史などをについて専門家に話題をふった。
それまでの和やかなスタジオの空気が途端に引き締まって堅い話題が続いた。
井出さんはそれを聞きながら呟いた。
「今日の殿下の会見が突然決まったものだから、テレビ局のほうでも放送できる映像集めに苦慮しているようですね。
下世話な話ですが、普段メディアへの露出の少ない殿下が自らテレビの前に立ったことは反響が大きいでしょう。なにしろあのお姿ですからね」
私は小さく頷いた。
人は見た目ではないという言葉はどこでも聞かれるが、結局のところ人は相手の内面を目に見えるもので判断してしまうことが多い。それがよく知らない相手ならば尚更だ。
そういう点では、きちんとカガン陸軍の礼装を身につけた悲劇の王子であるミハイルの姿はテレビを見ていた日本人の関心を少なからずカガンにひきつけただろう。
「殿下には優秀な頭脳がついているようですね」
井出さんの言い方は、ミハイルの背後にある優秀な頭脳を賞賛してはいたけれど、どこか警戒するような響きが感じられた。
きっと、この会見はイリアスさんが計画したに違いない。
こういうことに疎(うと)い私も井出さんの言葉でそれを察した。