アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)

「Aがアーなのは簡単に理解できるけど、イーがИで、手書きだとuになる……?
ややこしいなー……」


一人でいる時間が長く外出もままならないため、だんだんひとり言が多くなってきた。


私の安全のためにこのホテルに緊急避難しているということはよくわかっていたし、私の部屋の周りには常に井出さんと高坂さんが居て私を守っている。仕事を休まざるを得ない私の金銭面についてはカガン政府から休業補償がある(予定だ)。

私のためにカガンと日本の税金が投入され、私はかなり手厚く保護されているのはわかっているつもりだったが、ずっと外に出られず今後の見通しも立たない状況に、私は不安と苛立ちを感じはじめていた。
そのことから気をそらすためにカガン語の勉強などをはじめてみたわけだが、そちらもうまくはいっていない。

これは歯が立たない。
気長にやるしかないな……。


何も深く考えずに始めたカガン語の勉強だったけれど、私は半日で根を上げた。

気分転換にとイリアスさんがわけてくれた紅茶を自分で淹れていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。

「どうぞ」と応じると、午前中にテレビ中継で見たそのままの姿のミハイルが当たり前のような顔をして部屋にはいってきた。


私ははっと言葉を失った。
とっさに言葉が出なくなるほど、軍服姿のミハイルは明らかに普通の人でない気品をまとっていた。

< 239 / 298 >

この作品をシェア

pagetop