アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
この事を受けて、日本政府は国際機関の要請を受けてカガンの第一王子、アエネアス・ミハイル・ユスティニアノス・ハザール・カガンの緊急保護を決定した。
当面差し迫って王子のみに危険が迫っているというわけではない。
けれどカガン王家はロシア革命の際に国家を独立に導いた歴史があるため、今でも国民の王家に対する信頼は厚いと言われている。クーデター軍がカガンを掌握しようとした場合、王族の存在が邪魔になるのだ。
実際、クーデター軍は現在国王夫妻を王宮に監禁しており、他の王族は王子のようにたまたま国外にいた人以外はやはり殺害、拘束されているようだった。
国際情勢に詳しい専門家によると、現在王制を採っているカガンが軍事国家の道を歩み始める可能性も危惧されているようだ。
カガンはヨーロッパにも近く、天然ガスや原油の産出量が多い国だ。カガンの情勢が不安定になるとカガンからヨーロッパ諸国への天然ガスの供給が今までと同じというわけにはいかなくなるのではないか……。テレビに出ていた解説員はそんなコメントをしていた。
王子の現在の住まいであるカガン公邸やその周辺には黒いスーツ姿のSPや警官がうろうろするようになった。彼らの中には交替の時間に私の店を利用する人もいた。そのおかげで店の売り上げは少し増えたけれど、私はそれを単純に嬉しいとは思えなかった。
クーデターが起こって二週間。
はじめの衝撃は次第に薄れつつあったけれど、それでも自分の店の近所で何かが起きているという心のざわめきは簡単に忘れることは出来なかった。