アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
私達の生活に暗殺やテロが入り込む隙間はないわけではない。
けれど、現実にそれがやってくるかと言うとそうはならない。公邸の周囲には常に厳しい顔つきのSPが居たし、警察車両がこのあたりをパトロールする回数も増えた。
「何か」が突然やってくるなんて可能性はほとんどない。人にはその生まれ育ちや行動に相応(ふさわ)しい人生が用意されているものだ。
国際機関は、未成年である上にまだ学生で、何の罪もない王子をカガン軍のクーデターから守るべきだという見解を発表している。日本政府もそれに沿った方針を採っている。
おそらく、カガンが国際機関の制止を聞き入れることなくこのまま不当に国王夫妻を拘束し続ければ国際機関に参加する国々、とくにカガンから天然ガスを買っている国々がカガンに派兵し、このクーデターを力づくで止めるだろう。
人間の作り上げた社会というものは意外と堅実にできている。不当なことはほとんど起こることはない。
「王子も、メールの一つくらい送ってくれたっていいじゃん」
女の子がテーブルに肘をついて口を尖らせた。
「だよな。忙しいのかもしれないけれど、思ってること言ってくれないと、こっちも何もできないし」
「……検閲されてる、とか」
誰か一人がそんな事をぽつりと口にした。
すると、全員の表情がこわばった。