アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
ライムのような色の薄い葉に霧吹きで水をかけると、ポトスの葉の上でうっすらと層を作っていた埃が流れていった。
店の中にお客の姿はない。
閉店したわけではないのだけれど、いつ開店するかも明確にしないままずっと店を閉めていたせいで、随分とお客が減ってしまった。駅前のコーヒーショップに流れたお客もあっただろうと思う。
店を閉めていた間の損害補償としてイリアスさん個人の名前で十分すぎるほどの額、つまり数百万が振り込まれたが、クーデターでカガン人のお客を失い、そしてその上、古くからのお客の足が遠のいたというのは非常に痛い。
それを予想したからこそイリアスさんの振り込んできた金額も数百万と高額になったのだろう。
自分の店のことだというのに、はじめのうち、私はそれを全く理解しておらず、予期せぬ大金の振込みにうろたえた。
詐欺にでも巻き込まれたのかとおかしな想像までした。
何度かカガンの大使館や公館に連絡を取ってイリアスさんと連絡を取るべくいろいろ動いてみた。
しかしカガン政府が現在非常に混乱しているためか、イリアスさんと連絡が取れたことは一度としてなかった。
まさか王子との関係を人に知られるわけにも行かず、それ以上の手を打ちかねてお金をもてあましていたところ、私はだんだんと今自分が置かれている状況に気付いて、イリアスさんの支払った金額の意味を知ることになってしまった。