アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
怖くなったのか、すぐに別の学生がそれを否定した。
「個人の通信を勝手に見るなんて違法行為じゃん。ないない」
「だよね!一国の王子相手にそんなことするわけないよね」
「変なこと言い出すなよ、ビビッたじゃん」
「……でも、あんまり王子と連絡をとろうとしないほうが、いいのかもね。あ、迷惑かけちゃうかもって、意味で」
小柄な女の子が小さな声でそう呟いた。言葉の後半はどこかいいわけめいた響きを含んでいた。
「……迷惑、なのかな」
「公邸の中の様子がちっともわからないし、メールの返事もないしじゃ、要するに、そういうことなのかもな」
その言葉に反論するものはいなかった。
彼らはしばらく別の話をしながら少しぬるくなったコーヒーや紅茶を飲んだ。やがてカップが空になると、彼らははぞろぞろと立ち上がった。
王子は彼らにも連絡を取っていないのか……。
彼らはおそらく、連日報道されているカガンの様子から、王子が何か大きなものの渦中にいるということを感じ取って公邸を訪れた。そして、やはり王子に会うことはできなかったのだろう。
こんな寒い中を気の毒に。
私は彼らの席を片付けながら、窓の外にちらつく白い雪を見るともなく見ていた。