アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
涙を拭いながら、私は小さく頷いた。
それでいいのだ。強くなければ彼は王にはなれない。
私ももう彼を案じて泣くのはやめるべきだ。失った恋のためにだらしない生活をするのはやめよう。
私はこの生き方を選んだ。あの美しく短い恋を捨ててまでここに残ったのだ。もうミハイルに会うこともないだろうけれど、私は彼に恥じない生き方をするべきだ。
私は生まれて初めて自分自身の心の中に、何物にもかえがたいほど強い憧れが芽生えるのを感じた。
強く生きてみたい。彼のように。
この年で二十歳の青年の姿に教えられるなんて、私は今までどれほどぼんやりと生きてきたのだろう。けれど、今さらながら私は自分自身の中に通すべき、柱のような何かを見つけた気がした。
私は新聞を置き、住居へと続く階段を上った。
店を開けるよりも先に、すべき事がある。
私を動けなくしているのは断ち切りがたいほどの未練だ。しかし、その汚泥のような未練は洗い流された。
悲しみや後悔の涙ではなく、心を動かす涙によって。
明け方のリビングは冷え切っていた。薄青い光が部屋の中に広がり、次第にその青さが朝の白へと変わりつつあった。
私は迷うことなくミハイルが使っていた部屋へと向かった。
面倒だから片付けない。
そんな言い訳をして、私は自分の未練を断ち切ろうとしなかった。
けれど、それはもう終わりにするべきだった。