アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)

入ってきたのは髪を金色に染めた目のきつい男だった。
彼は派手な流の刺繍の入った赤いスカジャンに色の抜けたダメージジーンズをはいている。
中高年のお客が八割を占めるうちの店のお客としては非常に珍しいタイプの人だった。


彼は店の中を見回し、最後に私の顔を見た。


「……ここ、いいっすか」

私よりも少し年下の男の人が店の出入り口から一番近い席を指して尋ねた。

「はい、お好きな席にどうぞ」

「ご注文がおきまりになりましたら、」
「アメリカン」

彼はせっかちな性格なのか私がお決まりのセリフを言い切る前にそう答えた。


「かしこまりました。少々お待ちください」

テーブルに水とお絞りを置いてキッチンに戻ると、彼は睨むような目で店内のあちこちを見回し始めた。
備え付けの新聞や雑誌を読むでもなく、携帯をいじるでもない。ますます変わった様子のお客だった。
アメリカンをテーブルに運んで「ごゆっくりどうぞ」と言った瞬間、彼は私を見上げて言った。

「あのさ。
ここ、すわってもらっていい」

「は、い……?」

私は彼のきついまなざしに少々戸惑った。そんな私をせかすように、彼は自身の座っている席の真向かいを指差した。


「ここ、あいてるじゃん。座って」



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