アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
ミハイルは眠いのか、それとも酔っているのか、どこかふわふわとした甘えるような声音で囁いた。
「……」
「……ハル。
今日は僕の内閣を初めて召集したんだ。
父を裏切った閣僚は僕の内閣には入れなかった」
「……そう……」
「国王に無視された貴族は蟄居謹慎して王の許しを待つしか生きていく道はない。僕が国王である限り、彼らが僕の内閣に入ることはない。
だから今日はすごく気分がよかったんだ。
国王という地位も悪いことばかりじゃないと思えた。
父の受けた屈辱を少しは濯(そそ)ぐことができるのだからね……。
それなのに、外務省の井出がこっちにきていて、君から預かりものだと……刀を返してきた。
珍しくいい気持ちで一日が終われると思ったのに、今は最悪の気分だ」
私は何も言わなかった。
ミハイルがなんと思おうと、私があの刀を持っていていいことはない。しかるべきところに返すべきだという気持ちは今も変わっていない。
ミハイルは小さく息を吐いた。
「あなたは、僕の即位式を見届けてくれると言ったよね」
「嘘つき……ひどい人だ……。
僕がどれほど傷ついたか、わかる?」
知っている。
私は空港で、たしかにミハイルの心が壊れる音を聞いた。
ミハイルの罵声と懇願をこの目で見た。
きっと私は憎まれているだろう。そんなことはわかっていた。だから家に戻ってから何度も涙で枕をぬらした。眠れなかった。
「僕は、またひとりぼっちになったよ。
国王になっても、僕は一人だ。
あなたのせいで……僕は、恋を知る前よりもずっと辛い」
ミハイルはそこで言葉を切った。
ノイズの中から小さなため息が聞こえた。
「……ああ。なにを言おうとしたんだったっけ……。シャンパンの飲みすぎだ……。
そうだ、ハル。僕はあなたが憎い。
あなたみたいな人、僕は嫌いだ。……大嫌いだ……」
「……」
「……ハル。
今日は僕の内閣を初めて召集したんだ。
父を裏切った閣僚は僕の内閣には入れなかった」
「……そう……」
「国王に無視された貴族は蟄居謹慎して王の許しを待つしか生きていく道はない。僕が国王である限り、彼らが僕の内閣に入ることはない。
だから今日はすごく気分がよかったんだ。
国王という地位も悪いことばかりじゃないと思えた。
父の受けた屈辱を少しは濯(そそ)ぐことができるのだからね……。
それなのに、外務省の井出がこっちにきていて、君から預かりものだと……刀を返してきた。
珍しくいい気持ちで一日が終われると思ったのに、今は最悪の気分だ」
私は何も言わなかった。
ミハイルがなんと思おうと、私があの刀を持っていていいことはない。しかるべきところに返すべきだという気持ちは今も変わっていない。
ミハイルは小さく息を吐いた。
「あなたは、僕の即位式を見届けてくれると言ったよね」
「嘘つき……ひどい人だ……。
僕がどれほど傷ついたか、わかる?」
知っている。
私は空港で、たしかにミハイルの心が壊れる音を聞いた。
ミハイルの罵声と懇願をこの目で見た。
きっと私は憎まれているだろう。そんなことはわかっていた。だから家に戻ってから何度も涙で枕をぬらした。眠れなかった。
「僕は、またひとりぼっちになったよ。
国王になっても、僕は一人だ。
あなたのせいで……僕は、恋を知る前よりもずっと辛い」
ミハイルはそこで言葉を切った。
ノイズの中から小さなため息が聞こえた。
「……ああ。なにを言おうとしたんだったっけ……。シャンパンの飲みすぎだ……。
そうだ、ハル。僕はあなたが憎い。
あなたみたいな人、僕は嫌いだ。……大嫌いだ……」