アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)

ケトルの注ぎ口から白い湯気が吹き出しはじめるころ、キッチンは少し暖かくなっていた。

私は二つのカップを出してロイヤルミルクティーと、そしてカガンティーを淹れた。
王子の前にカガンティーを、そして自分用ロイヤルミルクティーを。


王子ははじめ、それを口にするのをためらっていたようだった。

そんなものが今の王子の役に立つのかどうかわからなかったけれど、付き合いで定期購入している薬箱を出してきて、カウンターの上においた。


「雪がやむまで……、店にいてもいいよ、私は一晩中二階にいて、何も気がつかなかったことにするから」


彼に対する怯えと同情で、私の声はか細くかすれ、彼の耳に届いたかどうかもわからなかった。


私は店のエアコンを入れると、自分のカップを持って逃げるように二階の住居に上がった。


二階に逃げ込んでからも私は階下の様子が気になって落ち着かなかった。
怪我をしてここに逃げ込んだ彼を哀れに思う一方で、刃物を持った男の存在が恐ろしく、一階店舗と二階の住居を隔てる薄い扉の鍵が施錠されているか、何度も確認した。

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