アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
彼はここには来ない。大丈夫だ。頭ではわかっていた。
彼の様子を見るに、彼はむしろ人との接触を避けようとしていりようだった。
王子は私がこのことに関わるのを避けようとしている。彼は来たくてこの店に来たんじゃない。私を頼ったのでもない。
以前、ポトスをあげると言ったときに目尻を赤く染めた彼の繊細さと気位の高さを思えば、余計な手出しをしては彼をここから追い出すことになると感じた。
休息をとる場所も、飲み物も薬も提供した。だから放っておくのが一番いい。警察も救急車も読んではいけないのならば、もはや私にできることは何もない。
そう自分に言い聞かせて、私はソファに腰を落ち着けた。しかし階下で何が起こっているのか気になってしかたがなかった。
私は気を紛らわせようとテレビをつけ、興味もないバラエティ番組に集中しようとした。
どのくらいそうしていただろうか。気がつくと先ほど淹れた紅茶がすっかり冷えて、テレビ画面は砂嵐を映している。
奇妙な緊張感に耐えられなくなり、私はそっと階下に降りていった。
もう彼は出て行ったのだろうか。
そっと音を立てないように店に続くドアを開けると、王子の姿は見えない。
ちょうど午前三時半だった。
冬の夜は深い。まだ夜の明ける気配はなく、明り取りの窓から街灯の明かりが差し込んでいる。
暖房をつけたままにしておいたので、店の中は凍えるほど寒いわけではないけれど、それでもやはり肌寒い。
キッチンの小さな明かりは消されている。
暗いので店の中はよく見えないが、王子の姿は見えない。
もうどこかへ行ってしまったのだろうか。
『雪がやむまで……、店にいてもいいよ、私は一晩中二階にいて、何も気がつかなかったことにするから』
これは自分が言ったことだが、王子がその言葉通りに行動したのかと思うと、薄すぎる縁を頼ってこんなところに逃げ込まざるを得なかった彼の身の上が痛々しい。彼の友人は頼れなかったのだろうか。
私はどうすればいいのだろう。
開店までに王子の残した血のあとを消しておいたほうがいいだろうか。