アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)



結局、私は一睡もできないまま朝を迎えた。

少し早いけれど店の床に残った血のあとを拭い、王子の使ったカップを片付け、二人と一匹分の朝食を作って店を出た。

王子の服をあのままにはしておけない。どこに行くにしてもあんな格好では通報されてしまう。それに、なんといってもTシャツとパーカーでは寒い。

24時間営業のスーパーで男性向けの服を購入して急いで帰ってくると、王子の眠っているベッドの脇に朝食といっしょに揃えた。
王子の寝息は昨夜のように明らかにおかしいものではなくなっている。顔色も少しはましに見える。


これなら、大丈夫かな……。



まだ少し心配だったけれど、私はそのまま店に降りていっていつも通りに仕事を始めた。

私の店は古くて、大手のコーヒーチェーンのように一日中お客が絶えないというような事はないけれど、それでもありがたいことにモーニングの時間はそれなりに繁盛していた。
なんだかんだと一人でモーニングのお客をさばき、やっと自分が一息つけたのが14時くらいだった。


王子の容態が気になりつつも、手が空くまでに時間がかかってしまった。王子はひとりでどうしているだろうか。

店と住居をつなぐ階段をのぼる一段一段がもどかしかった。

誰に見られているわけでもないのに、私は警戒して二階の窓から家の前の商店街通り、それに裏路地の人通りを窓から確認した。通りには冷たい風が吹いていて、みなが首をすくめるようにして歩いていた。

「王子」

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