アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
テレビをつけると、カガン国関連のニュースが流れていた。
王子がいなくなったという情報は全くと言っていいほど報道されない。
いや、そもそもほとんどの日本人はカガンの王子が日本に居るということすら知らない。
テレビに映るのは海外のテレビで流されたというカガン国内の映像ばかりだった。
それはいかにも遠い国で起きたことを、あくまで海外の情報として少し流すだけ。そんな印象だった。
実際、カガンが現在クーデターで国として機能しなくなっていても、日本にはほとんど影響がない。
外務省がカガンへの渡航を避けるよう渡航注意勧告を出してはいるが、そもそもカガンは海外旅行先としては人気がないので、やはりこれもあまり報道されなかった。
今まさにクーデターが起きているという国の王子が、けがをして我が家に一晩泊まった。
その事実さえ、嘘のような気がしてきた。
それほど彼は我が家に何の痕跡も残さなかったのだ。
彼が予想よりも早くこの家を出て行ったことで、私は彼を心配しつつも少しほっとしていた。
医療の知識も財力も人脈もない自分がそう長く王子を匿いきれるとは思えなかった。何かがあったとき、私では彼を助けられない。
彼が無事でいるといい。
私はそっと胸の中でそう願った。