アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)




曇り空から舞い落ちる雪を見上げ、私は無意識に身を震わせた。

天気予報では今夜から降り始めた雪は数日ふり続けるだろうと言っていた。
喫茶店で使うパンやミルク、コーヒー豆などは業者が届けてくれる予定だが、私自身の食料となるとそうはいかない。

私は雪を見越して、いつもより多めに食品を買い込んだ。
食品を買いに行ったスーパーでも商店街でも聴きなれたクリスマスソングが流れていて、私も知らず知らずのうちに聴き覚えた曲を口ずさんでいた。


父がいた頃はこういう時、よくみぞれ鍋を作って私の帰りを待っていてくれたものだ。

当時はそれが私にとっては小さな不満だった。
親のありがたみなんかこれっぽっちもわかっていなかった当時の私は、せっかくのクリスマスなのだからローストチキンやおしゃれなオードブルを食べたいと何度も父に訴えた。けれど、父は鍋のほうが温まるといって譲らなかった。

今の私はローストチキンでもケーキでも、好きなものをクリスマスディナーに選ぶ事ができるし、実際、スーパーの袋の中にはオードブルもケーキも入っている。
けれど一人のディナーは思ったよりも味気ない。今夜も去年と同じように一人でワインをあけて一人でケーキを食べるのかと思うと、どこか外に食べに行けばよかった、とそんな気もする。

寂しいのだ、私は。


普段はちっともそんなことを思ったりしない。むしろ普段は一人の自由を満喫しているのに、年末の慌しい空気の中では一人を寂しいと感じている。勝手なものだ。
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