アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
私の家の中は散らかっていた。一国の王子を招くどころか何かの業者さえ入れるのをためらうような部屋だ。
普通の精神状態のときなら私は王子を招き入れることはしなかっただろう。けれど、その時の私にはどういうわけか身についていたはずの恥の概念も警戒心も何もかもなくなっていた。
うちはもともと一般的な住宅とは少し違った作りになっている。
外階段のドアは居住スペースの出入り口になっていて、一畳ほどの狭い三和土があり、そこからドアも何もなく暖簾(のれん)がさがっているのみで、即ダイニングキッチンとなっている。
他には父の部屋だった和室と、私の寝室、そして風呂やトイレなどがある。つまり玄関を入ってすぐの部屋が居住スペースの中で一番生活感が出るリビングなのだ。
王子に声をかけたその時、私はすっかり我が家の生活感など忘れていて、実際その惨状が目の前に広がるまでそれを思い出すことはなかった。
私は慌てて家に上がって歩きながら下着など部屋干しの衣類を手早く片付けた。
「ご、ごめんね、最近忙しくって、片付けられなくて」
玄関に突っ立ったまま、王子はどう行動していいのか判断がつかない様子だった。私が慌てて片づけをしているので上がるに上がれないのだろう。
「スパイが、いて」
王子はそう言いながらただでさえ赤い顔をますます赤くした。自国の内乱を恥じているのか、ここしか頼るあてがなかった自分自身を恥じているのか。
「どこに逃げても……追ってきて」
この非常時に、年若い学生の王子に何かが出来るなんて誰も思わない。
同情することはあっても恥じることなど何もないのだけれど、彼はその繊細さとプライドの高さゆえか、自分の恥の感情で自分を追い詰めているように見えた。