アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)

私は彼のその言い訳に対し、聞こえなかったふりをするしかなかった。


「散らかってるけど上がって。ソファにでも」

そう言いながら、ソファの上に投げ出した店の制服を抱えて寝室に投げ込んだ。


「待ってて。今部屋が暖かくなるから。それにカガンティーも」


私はエアコンをつけ、テレビをつけた。
クーデターが起こってしばらくたった今、一般のテレビ放送でカガンのニュースが流れることはほとんどなくなっていたけれど、それでも思い出したようにたまにカガンのことが報道される。王子はきっとカガンのことを気にしているだろう。


「ゆっくりしてて。ステイ、ヒア」

思えば私の英語は非常に怪しい。
私の英語は外国人相手に披露できるようなシロモノではないのに、その時は自分の言いたい事をなんとか伝えたいと思っていた。
『あなたは何も恥じることなどない』特にそれを伝えたかった。

けれど日本語でも英語でもうまい言い回しは見つからなくて、なんと言っていいのかわからなかった。




階下の店でカガンコーヒーを作って二階に上がってくると、ソファの端に王子ががっくりと頭をソファの背に預けて座っていた。
彼は目を閉じていて、長いまつげが頬のあたりに濃い影を落としている。呼吸が苦しそうだった。


意識を失うように眠ったのか本当に意識がないのかわからなかったけれど、彼の顔は赤く、汗を滲ませていた。
おそるおそる彼の額に触れるとひどく熱い。

彼が私の店にやってきてから一週間と数日。その間どこでどうしていたのか。ろくに休めなかったのだろうか。
どうして日本政府に助けを求めないのだろう。いや、その日本政府すら頼れないような状況なのか。

< 47 / 298 >

この作品をシェア

pagetop