アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)

私はかつて店で楽しげに王子と談笑していた学生たちの顔を思い浮かべた。

よく店で一緒に過ごしていた、あの友人たちのところは頼れなかったのだろうか。……いや、頼れないだろうな……。相手は学生だ。学生というのは自由なようでいて、実際自由になるのは時間くらいなもので、住むところもお金もままならないものだ。家族と同居ならば一国の王子を家に上げればすぐに通報されるだろう。

一国の王子だからこそ、こうなってしまってはどこも頼ることは出来ないのだ。


私はため息をついて寝室から毛布を持ってくると、そっと王子の体にかけようとした。
しかしその前に少し衣類を緩めてあげようと考え、そっとパーカーの前を開けた。

ずっと同じ服を着ているのか、彼の汗の匂いが上がり、王子の胸元で私の手が何か固く冷たいものに触れた。
パーカーの前を広げてその固いものをとってやろうとした瞬間、私は思わず体をこわばらせた。王子はTシャツの上に皮製のホルスターをつけていた。海外の映画でみたことがある。ホルスターには銃がさしこまれていた。



銃だ。
一瞬、玩具かと思ったけれど、ずしりと重いその感触に手を引いた。
状況からいってこれがおもちゃのはずがない。

ぞっとした。
王子から思わず体を離し、玄関脇に置かれた電話に目をやった。


警察。

でも、警察に電話をしたらこの子はどうなるのだろう。
保護される?保護されるだけならいいけれど、スパイがいるならカガンの軍関係者にも彼の居所がわかってしまう……?

スパイ。
銃。
そして、王子。

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