アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
私はあわててふりかけや塩の瓶を戸棚の中に片付けた。
雪と曇天のせいでいつまでも乾かない洗濯物類を片付けてそれでいちおう私は満足していたが、私の巣と化しているリビングは雑多な生活用品がそこここにあふれている。
父の生前は一応ひとりでは無いので気を使う部分もあったが、父の死後は親戚づきあいが薄くなったのをいいことに人を家に招くことも絶えている。私は自分以外の誰かを部屋に招き入れるという事について、完全に想像力をなくしていたらしい。
私は自分のずぼらに恥じ入りながらいまさら片づけを始めるわけにも行かず、黙ってオードブルのパッケージの蓋を開けた。ごく一般的なプラスチック製の蓋だ。
「……ごめんね。うちはいつもナイフを使わないから。ええと、どこへしまったかな」
いつもオードブルについてくる楊枝でから揚げを食べてしまう私には、ナイフを使おうなんて発想自体がなかった。
もちろんナイフがないわけではない。どこかに仕舞ったきりではあるけれど、どこかにはあるはずだ。
私はカトラリーをいれている引き出しをごそごそと漁った。
から揚げなんか一口で食べられるよね、と王子様に言っては不敬罪になってしまうのだろうか。
「……」
そんな私の考えを読み取ったとも思えないが、彼は困ったように唐揚げをしばし見つめ、やがてプラスチックの楊枝をつまんだ。
持ち方が悪かったのか、楊枝の先からつるりとから揚げが抜け落ちた。
彼はさすがにこの状況で私に苦情を言ってはいけないことくらいは理解していたようだったが、それでも神経質そうな顔にさらに困惑の表情が浮かんだ。