アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
「あなたが席につくのを待っています」
口調も少し改まっている。いきなりナイフを突きつけた相手に丁寧な口調で話すというのも奇妙だけれど、一種のテーブルマナー的なもので、本人も無意識なのかもしれない。
「どうして私?」
「女性だから。女性が先に席につくものでしょう」
いかにも当然のことのようにそう言われ、私は困惑した。
王子と一緒に食事を取る予定でなかった私はちらっと時計を見た。もう夜中の三時だ。若い人はそんなことは考えもしないのだろうけれど、一般的なアラサー女性は夜中の三時に揚げ物とケーキを勧められてもたぶん、断る。
「私は……」
テーブルの上には王子がセッティングした皿がきちんと私の分も用意されていた。
私は苦笑して席に着いた。
「食事は出来ないけれど、一緒にお茶を頂きます、王子様」
私達は向かい合って座った。王子はよく父が座っていた席に。そして私はキッチンを背にした席に。
この家で誰かと向かい合って座るのは本当に久しぶりだった。
王子はお茶を飲みながら黙っている私を見、私がカップを置いたタイミングで口を開いた。
「一つ、いいですか」
「ん?」
「……できれば、カガン人の前では王子様ではなく『殿下』と。二人のときは、ミーシャでもユスティでも構わないので」
「でんか?」
彼は頷いた。