アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
他人と自分を比べ始めると、今自分が必死でやっている事を投げ出したくなってしまう。
自棄(やけ)になってささくれた心を無視して頭で考えてみれば、私の生活は決して悪いものではない。
むしろ、私の場合は父が店とレシピを残してくれたぶんだけ経済的には恵まれていただろう。父がいなかったら、就職して一年足らずで仕事を辞めた私はもっと苦しい生活をしていたにちがいない。
自分はラッキーなほうなのだ。
そういうことに気づけるようになっただけ、私だって少しずつ成長はしている。
雑誌に載るような若い女性たちほど前向きに生きているわけではないけれど、それでも今の私は十年前とまったく同じ、幼稚な私ではない。
一人で暮らして、ちゃんと税金も払って、お金持ちではないけれど食べていく程度の収入はあるし、今の仕事が嫌いなわけでもない。
昨日と同じ今日を繰り返し、今日と同じ明日が私を待っている。
変化はないし、ワクワクするようなこともないけれど、まあまあ平穏。
それでいいじゃないか。刺激的な生活を味わってみたくなれば映画もドラマもある。しかも、それらはほとんどただで、このソファに座ってリモコンを操作するだけで手に入るのだ。
私はテレビを消してたたんだ洗濯物を持って寝室に向かった。
明日の五時にはまた今日と同じ一日が始まる。ぐずぐずと思い悩んでいる暇はなかった。