アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)

私は間違っている。それがわかっているのに動けない。

もちろん自分が根っから善人だといい張るつもりはない。実のところ、今、私は頭の中で損得を計算して少し不安になっている。でも、私は所詮感情に勝てない弱い人間なのだ。お局が気に食わないから仕事をやめた。王子がかわいそうだから匿(かくま)う。その二つは根っこのところでは同じ事だ。

腹をくくるしかない。
まずは、今日も店を開けて自分の食い扶持(ぶち)を稼ぐこと。それから王子の朝ご飯をモーニングの合間に作って、二階に運んでおくことをやろう。


先のことを考えすぎない。
今できることをとにかく済ませる。

先が見えないときは足元をよく見ること。これは私が会社をやめて以降、少しずつ家の手伝いをしながら身につけたことだ。

勢いで会社を辞めたあと、ときどきあのまま会社員を続けていたらどうなっていただろうと思うことがあった。自覚はなかったけれど、これも後悔の一種なのかもしれない。

今やっていることもいずれ私は後悔するかもしれない。けれど、警察に電話をすることはできなかった。
不安に押しつぶされて、自分が選んだ道を放り出してはいけないような気がした。

先のことを考えすぎない。

今できることをとにかく済ませる。
悩むのはそれからだっていい。……と、いうか、すでに寝坊している。悠長に今後のことを考えるよりも、今は開店準備を急がなければ。



エプロンのヒモをぎゅっと固く結んで、私は店に降りて行った。
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