アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)



ショッピングのために電車を使うなんて久しぶりだ。


午後は店を閉め、なけなしの貯金を下ろして王子の服を買って回った。

さすがに私の経済力ではハイブランドの服は買えない。
しかし、一週間前に私がスーパーで購入したパーカーとスウェットの上下をいつまでも着せていては衛生上いいとは思えない。
それに、仮にも王子様と呼ばれるような人に失礼だが……あえて失礼を承知で言わせてもらえば、彼の服には砂埃や血、汗のにおいがかすかに感じられた。
たぶんその下に着ているTシャツや下着は王子様に相応しくないにおい、つまり……体臭と血と汗の匂いが染み付いていることだろう。


あの服は絶対に我が家の洗濯機には入れない。捨てさせてもらう。靴下?即座にゴミ箱行きだ。

それに、寝るときは寝る時用の服を着てもらいたい。
今、王子は一組しか服を持っていないし、体力的な余裕もない様子だから目を瞑っているが、外出着にしていたパーカーで布団を使われるのはちょっと抵抗がある。


彼が好きでそんな不衛生な状態に身を置いているのではないことはよくわかっている。だから私は何も文句は言わない。しかし彼の新しい服はどうしたって入り用なのだ。

……などといろいろ言い訳をしつつ、私はかなり時間をかけて彼の服を選んだ。
なにしろ彼はあの容姿なので、つい服を選ぶ側もあれも似合うだろう、これも着せてみたいと欲張ってしまう。
彼の服のために使ったお金は軽く予算を超えてしまった。

我ながら何をやっているのかと呆れてしまったが、ショッピングがこれほど楽しいのも久しぶりだった。




家の裏手の外階段で二階に上がり、音を立てないようにリビングに入っていくと、王子はソファの上で寒さに耐えるように自身の体を腕で抱いて眠っていた。エアコンはついていない。



これじゃ治るものも治らないじゃないか。
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