アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
私はリビングテーブルの上で古新聞の下敷きになっていたリモコンを無意識につかんでエアコンをつけ、テーブルの上に残っていた王子の朝食の皿をシンクに運んだ。
……ああ、そうか。王子はリモコンが見つけられなかったんだな。
自分ひとりなら自分のやり方はすっかり飲み込んでいるからリモコンはどこを探せばいいのかよくわかるが、しかし今は二人なのだから物の置き場所には気をつけなければ。
私はリビングテーブルの上にごく自然に乗せてあるもの、雑誌、新聞などを片付けた。
その物音で王子がうっすらと目を開けた。
私と目が会うと、彼はかすかに微笑んだ。まだ目つきが少し朦朧としている。その顔つきは普段よりもずっとあどけなく、少女のようにも見えた。瞬きのたびに長いまつげがひらひらと動いた。
「おうじ、じゃなかった……殿下。調子は?」
私は何も深く考えることなくごく自然に彼の額に手をあて、その熱さに思わず「うわっ」と声をあげた。
彼の顔の皮膚の薄い部分が熱のために赤く染まっている。
「もう、大丈夫」
ため息と共に吐き出された彼の言葉はうつろだった。
熱のせいで瞳は潤んでいたし、髪が湿るほど汗をかいている。
どうみても大丈夫ではなさそうだ。
私は彼の「大丈夫」という言葉を信じないことにした。買ったばかりのスポーツトドリンクをあけ、彼の了解を得ることなくボトルを彼の口にあてがった。雪のちらつく中を運んできたものなのだから、冷蔵庫に入れなくともきっと十分に冷えているはずだ。