アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
「少し我慢して立てる?汗を拭いて着替えをしなきゃ」
前髪が額に張り付くほど汗をかいている。服を替えなくては風邪をひいてしまう。そう思っての発言だったが、口に出してから気がついた。
彼の汗を拭く人は私しかいない。もちろん緊急時なのだからやらねばならないことはするつもりだが、相手は男性だ。こちらにも向こうにも恥ずかしさというものがある。どうしたらいい。
自分で言い出したくせに困っていると、その私の困惑を感じ取ったのか、彼が言った。
「……浴室をお借りしても?」
「もちろん。服も用意したから」
私は我が家には不似合いなほどスタイリッシュな紙袋の数々を示した。
「こんなに……」
「緊急時だし……、ここにあなたを匿うと決めた以上、これは最低限必要かなって。私は庶民だから、あなたが普段着ていたような上等のものは買えないんだけど」
半分は自分に対するいいわけだった。実のところ竹のようにしなやかですらりとした美貌の王子様の服を選ぶのは非常に楽しかった。少し調子に乗って予算をオーバーしてしまったくらい。
王子の頬が首まで赤くなった。
ポトスの鉢をあげたときと同じ表情だ。きっとまた人から施しを受けたと自信を恥じているのだろう。
「もう、十分してもらったのに、こんなことを」
王子は言葉を選びかねているように見えた。
「僕にはあなたに返せるものが何も……なくて」
「……」