アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
「例えば二つ道があるでしょ、一つは楽だけど結果もあまりない道。もうひとつはとんでもない努力が必要だけれど、挫折せずに成し遂げれば大きな結果に繋がる道。
そういう選択肢が二つあった時、私って絶対に楽そうな道を選んじゃう。
大きな結果に興味がないわけじゃなくて、挫折しないで頑張るってことが、どうしても言い切れなくて。
だから……情けないんだけど、今まで努力して何かを成し遂げるって事がなかった。
仕事もすぐやめちゃったし、学校だって自分の学力でいけそうなところを受験して適当にやってきた。
仕事も……父親の店をそのまま継いだだけで経営がよくなったわけでもなきゃ新しいメニューが増えたわけでもない。
私の父はもう随分前に亡くなったんだけど、生きているうちはそういう私を少しも情けないなんていわなかった。
でもやっぱりおなかの中じゃ言いたい事もあったと思う。だって、父本人は努力家だったし。
それで今ごろになって生前の父には歯がゆい思いをさせちゃったかもしれないって、父が死んでからやっと反省したわけで……。
わ、わかるかな、私の言ってる事」
彼は頷き、そして先を促すように手で示した。
「あー、えっと……。なんだっけ。
そう、だから、あなたが国に帰ることができたら、トロフィーとか勲章とか賞状みたいな物でもいいんだけど、何か……私が人を助けたっていう何かを形にしてもらえたら嬉しいなって。仏壇に飾るから」
「……ああ、名誉って、そういうこと」
「う、うん」
彼はそれを聞いて少し考えていたが、やがてその気品のある美貌を曇らせた。
「それは、……約束できない」
王子の声は弱々しく、かすれていた。熱のせいで気も弱っているみたいだ。
私は先ほどの提案に彼が飛びつくものと思ってすでに新しい洋服を袋から出しかけていたのだが、まさかの拒否に驚いて手を止めた。
「どうして?」
彼は長い指を顎に当てて、考えながら話し始めた。