アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
「僕の国は、なくなるかもしれない。
今回のクーデターには近隣の大国の意思が働いている可能性が高い。
国王陛下が幽閉され、軍が王の意にそむいた今、他国の支援なしに王子である僕が一人で国を立て直せる可能性は低い……。
僕は今すぐにあなたに位や名誉を授けることはできますが、僕が王子でなくなればそんなものに価値はない」
彼の声は屈辱と悲しみに震えていた。
「僕は、明日にも亡命せざるをえなくなるかもしれない。暗殺されるかもしれない。そんな立場だ」
祖国から離れてたった一人。お金も服もなく、怪我をして頼るあてもない。
一国の王子なのに。
「……それでもいいの。今、あなたが王子なのは紛(まぎ)れもない事実なんだし、私が何かひとつのことをやり遂げたって印になれば、なんだっていいの」
王子の言うとおり、いつなくなってしまうかわからない国の国民栄誉賞なんてもらっても意味はないのかもしれない。
でも、それでも別に構わなかった。
私は意味が欲しいんじゃない。私がそれを眺めて、お父さん、私も誰かの役に立ったよと言えればそれでいいのだ。私がここに在(あ)ることで、誰かが助かった。
そう自分を誇る事ができればそれで十分だ。